2007年12月31日月曜日

2007年、大晦日に寄せて

先日、ニジェールにいる僕の友人からメールが来て、僕が住んでいた村の家族の様子を知らせてくれた。村の人たちは字を使わないので、直接手紙のやり取りが出来ない。こういった機会に聞ける村の近況が本当に嬉しい。メールから伝わってくる様子は、今年の2月におじいちゃんのモッスィが亡くなるという不幸があったけれども、みんな相変わらず元気に暮らしている様子だった。ニジェールはイスラム教国で月の暦を使っているので、「大晦日」というのはあまり関係がない。村のみんなは今日も何の変わりもなく、何万年も流れ続けてきたニジェール川のほとりで、何万年も続く暮らしの今日という一日を穏やかに終えるのだろう。
ニジェールから帰国してもう3年になる。

先日、僕の大学時代からの友人の結婚式があった。結婚式は23日、クリスマスイブの前日に行われ、「お互い大学生だった頃の6年前のクリスマスイブは、二人して日雇い仕事の現場帰りに、汚い格好のまんまカップルだらけの表参道をなぜか男同士二人で歩いてたなぁ。」なんて思い出した。あれからもう6年。

こんな風にして時は流れ、人の営みというのは続いてきたのでしょう。大晦日なもんで、ちょっと感慨にふけってしまいました。

結婚披露宴では、二人のために作った歌と、ルイ・アームストロングのWhat a Wonderful Worldを歌った。この歌は、歌詞がとてもいい。一番好きなところは二ヶ所あるのだが、そのうちの一つが
”I hear babies crying. I watch them grow. (赤ちゃんの泣き声が聞こえる。僕は彼らが育っていくのを見守るだろう。)
They'll learn much more than I'll ever know(そして彼らは、僕が知っていることよりももっと多くのことを学んでいくんだろう。)
というところ。

最近、「人類の足跡10万年全史」というのを少し読んだのだが、そこにこんなことが書いてあった。「人類はここ10万年の間、進化していない。しかし、文化的に目覚しく進歩している。生物学的には進化していないのに、文化的に進化する生物は人類だけである。」みたいなこと。
本当にそうだなあ、と思った。例えば音楽だってそう。何万年もかかって、何万人という人類が時空を越えて、知恵を出し合って、今の音楽というものに辿り着いた。何万年もかかって今の楽器が形成され、ドレミ等の音階が決められ、和音だとかが比較的簡単に作れるようなり、こうして今の音楽が作られた。
僕が今自分で作っている歌にしても、何万人もの人たちが音楽を愛して、それをもっと良くしようと試行錯誤して作り上げてきて、それを次の世代が受け継いで、そうして人類が築き上げた莫大な財産のおかげで、今僕は自分がやっている音楽ができる。
アンジェリーナのパンにしたって、おじさん一人であのパンの形に辿り着いたのではない。おじさんはいろんな人にパン作りを教わったはずだ。そしておじさんにパン作りを教えた人たちもまたどこかでいろんな人からパン作りの秘密を教わっているはずだ。そして、その歴史は、さかのぼれば何万年も昔までさかのぼれるはずだ。

こうやって大切な事を伝え続けていけるのは人類だけなのだろう。

彼の結婚に際して作った歌の詩を載せときます。

あの頃 今ここで二人を 祝えるなんてこと 思いもしなかったけれど
こうして二人の歩いた 道のりすべてが一つになっていく 今
どんなに 寒い冬の夜でさえ 二人寄り添い 暖めあってゆける だから
いつまでも このままで どこまでも 二人で

どれだけ 言葉並べたって 足りないくらいなんだ 君を祝いたい気持ちは
いつだって 二人の幸せを願うこの気持ちは 変わらずここにあるから
ありふれた どこにでもある毎日 けれどそれこそ 一番大切なもの だから
いつまでも このままで どこまでも 二人で

変わらぬ ものなどないと 人は言う
それでも僕らは 知っているんだ ずっと変わらず 続いてきたものがあることを だから
いつまでも このままで どこまでも 二人で

いつまでも 一緒に 歩こう
君がそばにいればいい  二人でどこまでも


2007年も今日で終わり。大晦日です。

今年お世話になった方々、どうもありがとうございました。

そして、今年は7月を最後にライブをやっていませんが、上半期のライブに足を運んでくださった方、どうもありがとうございました。

あけて来年2月には色々な方のお力を借りて、CDが完成いたします。3月からライブを行っていく予定です。2008年もどうぞよろしくお願いいたします。

みなさんが穏やかな年の瀬を迎え、良い年を迎えられることを祈っております。

それでは、良いお年を!

一つのパン

うちの近所に「アンジェリーナ」というパン屋がある。ご近所さんに「駅のそばのアンジェリーナっていうパン屋さん知ってる?あそこはホントおいしいよ。」と教えてもらい、行ってみた。

木の実がたくさん入ったパンを買い、スーパーで安いワインとチーズを買って近所の公園で風に揺れる木々を眺めながら食べていると、一人でに笑顔がこぼれて幸せな気持ちになった。
すごいなと思った。パンなんか、スーパーで買える。スーパーの横にあるリトルマーメイドでも焼きたてのパンが買える。「まずくて食べられないパン」なんていうのはまず見つけるほうが難しい。つまり、どのパンもまあおいしく食べられるわけだ。でも、アンジェリーナのパンはただの「おいしいパン」じゃなかった。近所のおじさんが一生懸命作っているおいしいパンだった。

アンジェリーナのパンがなくても僕は全然生きていける。でも、木の実がたくさん入ったしっかりと練り上げられた固いパンは明らかに僕の一日を幸せな一日にしてくれた。