2008年12月12日金曜日

大事なこと

9月の末から、今日までずっと、僕が住んでいるアパートでは、一階から屋上まで足場を組んでの大掛かりな補修工事が行われている。

10月から11月にかけて、外壁とベランダの撥水工事をしている頃は、朝7時半から職人さんが4階の僕の家の窓の前を行ったりきたり、ベランダの中に飛び降りて壁を検査したりするので、カーテンも開けられず、さっさっと終われ、と思っていた。

工事の初めの頃、夜、自転車置き場に作業着が放置してあったり、工具が踊り場に置きっ放しになっていたりと、とにかくマナーの悪さが目立ち、そんなことが気になっていた。

そんな中、ある土曜日の朝、洗濯をしようと思い一週間ぶりにベランダに出てみると、洗濯機の上、ベランダ一面、排水溝に、外壁、屋上を検査する時に落ちたと思われるほこり、ゴミが散乱し、排水溝は水が流れなくなってしまっていた。その他にも、ベランダに置いてあった物干し、サンダルとかそういった物が散乱して、酷い状態だった。

この時は、僕は管理会社に電話を入れ、管理会社のほうから、苦情を伝えてもらうことにした。

一週間後、また同じことがあり、今度は直接現場責任者に電話を入れて、苦情を伝えると、責任者の方は謝りながらもなんだかもごもごと言い逃れをしている。

一週間後、今度は夜遅く家に帰ってシャワーを浴びて寝ようと思ったらお湯が出ない。どうやらベランダの給湯器を変にいじったらしい。仕方がないので、水シャワーを浴びて寝た。

次の日、朝仕事に行こうと外へ出た時に職人さんがいたので、「責任者の人、いますか。」と聞き、呼んでもらった。
これまでの不手際は全部若い作業員か、他の従業員がやったことで、責任者本人の行為ではないと分かってはいるが、そこはやはり、「責任者」、その責任の分、給料も多くもらっているのだろうと思い、その分やはり彼には監督責任があると思い、少しきつく僕の不満を伝えた。
その現場責任者の方は少しどもったりしながら、「すぐ直します」を繰り返していた。
ただ、とにかくきっと根は優しい人のいい人なんだろう、と思いながらも、頼りない「責任者」だな、と思わざるをえなかった。

そうして、外壁の工事も、ベランダも、11月の末には終わり、足場も撤去され、今は最後の仕上げをしている。

今、勉強をしていると、玄関の外で脚立を置いたり、動かしたり、何か作業をする音がしきりに聞こえるので、のぞき穴から外を見てみると、もう9時を過ぎてるのに、その責任者のおっちゃんが一人でもくもくと最後の仕上げ作業をしていた。職人さんも、若い衆も、みーんなとっくに帰ってるのに、その少し頼りない責任者のおっちゃんは一人、手すりを磨いていた。

僕は一言声をかけたくなって、台所の下に友人にもらってそのままになっている日本酒があることを思い出した。

ドアを開け、「ご苦労様です」と言って、「これ良かったら、」と言ってそのもらい物の日本酒を差し出すと、「いやいやぁ!いいですよぉ、そんなのぉ!」とか言いながらも、とても嬉しそうに、「いいんですかぁ!?」と言ってもらってくれた。
建設会社は大分の会社と書いてあったので、みんな九州から来ているのかと聞いてみると、若い衆はやっぱり九州の人間が多いけど、おっちゃんは地元も家も練馬で、この近所らしかった。

でもとにかく、夜遅くまで独りで頑張っている、なんだか少し頼りない責任者のおっちゃんを見ると、みんな人知れずがんばってるんだなあ、と思わされた。少し古くなった作業着を着て、どう考えてもここじゃなんも落ちてこねえぞ、という場所でもヘルメットをずれ気味にかぶり続け、もう誰もいなくなった現場で一人仕上げを続けるおっちゃん。ほんと、大事なことを教わった気がした。

工事はあさってが最終日だ。
なんだか不思議なもんで、あんだけ早く終われ、うっとうしい、と思っていた工事も、これで全部終わるのかと思うと少しの寂しさもある。ま、ずっと続けられても困るけど。