The Catcher in the Rye
「崖の上の草原でつかまえる人」
サリンジャーの書いた、"The Catcher in the Rye"。
本文中の描写も踏まえて訳を付けるとこんな感じだと思う。
たしかに、邦題は「ライ麦畑でつかまえて」、だ。
でも、話の中に畑は出てこないし、そこに生えている植物がライ麦かどうかはどうでもいいことで、とにかく崖の上の草原ということが問題。
「崖の上のライ麦の草原でつかまえる人」、という話がどこで出てくるかというと、主人公のホールデンが妹のフィービーに責められる場面。
高校を退学になったホールデンは、夜中にこっそり家に帰ってくる。
そこで、初めは大喜びだったフィービーが、しばらくしてホールデンがまた高校を退学させられたことを見抜き、ホールデンを責め始める。
「お兄ちゃんはそうやっていつも文句ばっかり言って。お兄ちゃんが好きなものなんて一つもないじゃない。好きなもの、何か一つでも言える?」
ホールデンは、「もちろんだよ。そんなの色々あるけど、ほんとにメチャメチャ好きなこと?それとも、普通に好きなことを言えばいいの?」、とか言ってとっさには気の利いた答えが返せない。
頭に浮かんできたのは、ぼろぼろの麦わらのかごで募金をしていた二人の修道女とか、前に通っていた高校で死んだ友達とか、そんなことばかり。
あれこれと頭の中で取り留めもないことを考えていると、
「やっぱりお兄ちゃんには好きなことなんて一つもないじゃない」、とフィービーに言われてしまう。
あわてたホールデンは弟のアリーの話を始める。
「あるよあるよ。何言ってんだよ。」
「じゃあ言ってみてよ。」
「例えば、そうだ、アリーが好きだよ。あと、こうやって今やってることとかさ。ここに座って、フィービーといろんな話をしたり、考えた..」
「アリーはもう死んだじゃない!」
「そんなこと知ってるよ!でも死んだからって好きじゃなくならなくちゃいけないのかよ。死んだからって好きじゃなくなるわけじゃないだろ。何言ってんだよ。」
しばらく沈黙のあと、またホールデンは話し始める。
「あと今こうやってることとかさ、好きなことだよ。今だよ、今。ここにフィービーと座ってさ、こうやってどうでもいい無駄話してさ。」
「だから、そんなの好きなことのうちに入らないって言ってるでしょ。」
「入るよ!何言ってんだよ!なんで入んねえなんて言うんだよ!みんななんも分かってねんだよ!ふざけんじゃねえよ!」
「分かった。分かったから、そんな汚い言葉使わないでよ。じゃあ、なんか一つ、なんか一つなりたいもの、言ってみてよ。科学者とか。弁護士とかは?」
ここからしばらくなりたいもの、弁護士とかの話をして、突然ホールデンは思いついたように、"Catcher in the rye"の話を始める。
「そうだ、俺がなりたいものでしょ?もしなれんならさ、あの詩覚えてる?『ライ麦の草原で出会ったら』ってやつ」
「ロバート・バーンズのでしょ。」
「そうそうそれ。ずっとあの詩の風景が頭に浮かんでてさ。めっちゃ広いライ麦の草原で子どもが何人も遊んでんのよ。そんで、その草原はすごい高い崖の上にある草原でさ。でも子どもたちは背が小さいからどこで草原が終わるのか見えないでしょ。だから、走り回ってる子どもが崖の上から飛び出しそうになったら、俺が走ってってつかまえるわけ。ただ一日中それだけすんの。ライ麦の草原でつかまえる人、それだね(I'd just be the catcher in the rye and all)。」
「俺がなりたいものって言ったらそれだけかな。アホみたいな話だってことはわかってんだよ。でも俺がほんとになりたいものって言ったらそれだけかな。」
The catcher in the ryeというのは、こんな場面で出てくる話だった。
「崖の上の草原でつかまえる人」
そんな人になりたいと、みんなきっとそう願っているのだと思う。
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