2007年7月10日火曜日

どんな時も手放さず手もとに置いておきたいと思う本 つづき

「Zen and the Art of Motorcycle Maintenance」(禅とバイク修理技術の心)。
「Motorcycle Maintenance」とあるけれども、この本はバイク修理技術について書かれてはいないし、禅についての話でもない。

父と息子のバイク二人旅の話だ。
でも読んでいるうちに、バイクと旅行の醍醐味について話しているのかなと思っていたところが、ふと突然「あ、これはバイクと旅行というメタファーを借りて人生全般について話しているのか」と思ったりする。

最初の5、6ページで、バイクで旅をするにあたってどういう基準で走る道を選ぶと面白いか、みたいな話がでてくる。当然そこを読んでいる時はそういう話としてそのまま受け取っているんだけれど、その箇所を読み終わった時、「いや待てよ。これは人生について言ってんじゃないか?」と思ったりもする。
“Plans are deliberately indefinite, more to travel than to arrive anywhere. Secondary roads are preferred. Freeways are the worst.”
(旅行計画はわざとあいまいなままにして、旅の目的は、どこかに着くことより、旅すること自体におく。わき道を選ぶと面白い。最悪なのは高速道路)

僕の好きな個所の一つに、このお父さんと息子のクリスが二人で山登りをする場面がある。
11歳のクリスは早く頂上に着きたくて仕方がない。さっき見上げたばかりなのに、頂上まであとどれくらいあるのかを気にしてまた上を見ては、息を切らしている。クリスはどんどん不機嫌になって、お父さんと喧嘩になる。お父さんは一人、頭の中でこんなことを考える。
“Mountains should be climbed without desire. When you are no longer thinking ahead, each footstep isn’t just a means to an end but a unique event itself. This leaf has jagged edges. This rock looks loose. These are things you should notice anyway. To live only for some future goal is shallow. It’s the sides of the mountain which sustain life, not the top. Here’s where things grow.
But of course, without the top you can’t have any sides. It’s the top that defines the sides.”
「山は『頂上に着きたい』という欲望を持たずに登るものだ。頂上のことを考えないようになると、その一歩一歩が、ただの目的のための手段ではなく、それ自体が面白い出来事になってくる。『お、この葉っぱは変なギザギザだな』とか、『この岩は落ちそうだなあ』とか、こういったことに気を留めることが山登りの醍醐味だ。未来のゴールのためだけに生きることは浅はかなことだ。生命が育まれているのは山の斜面であって、頂上じゃない。「ここ」が生命の育つところなんだ。
でももちろん、頂上がなければ、山の斜面もない。山の斜面を作るのは、ほかでもない頂上だ。」

結局、人生で大切なことって、どこかにたどり着くことじゃなくて、回り道にあるんじゃないか、と気づかされる。
「どこかに辿り着く」ということだけで頭の中を一杯にすれば、最短の道を選んで、ただ急いで走り続ける。その道は、そこに着くための手段でしかなく、何も見えない。ただ前を見て、「ゴールはまだあんなに遠いのか」と思い、後ろを見ては「まだこれしか来てないの?」とがっかりする。長く苦しい、つまらない旅だ。そしてその「どこか」、に着いたら着いたで、達成の高揚感が冷めれば、「でも、そういえばここに着くまでに何を見てきたんだろう?」と思ってしまう。
迷って、悩んで、「その時」に集中して、たくさん回り道をしてどこかを目指すとき、最短距離の道を選んでいたら見えなかったもの、知らなかったこと、経験できなかったことにたくさん出会い、色んな人に助けられて、そうして進んでいくだろう。
「着く」ことだけが旅の目的になってしまえば、そのための一歩は目的達成のためのただの手段になってしまい、長い旅も苦痛なものになる。でも、「着く」ということを目指しながらも、一歩一歩のその行為自体を旅の目的にすれば、それ自体が楽しい、満たされたものになる。

そんなことをこの本は教えてくれる。

まだ、つづく